babyco編集長。書籍編集者。
新潟の山奥で肉用牛を飼育しながら、野菜やくだものを育てる祖父母のお手伝いをきっかけに、丹精込めて作られた食材のおいしさ、食べることや命の大切さを学ぶ。特集記事、離乳食やママごはんなど幅広く担当。ママ・パパの気持ちに寄り添った記事の制作を心がけている。
せっかく楽しく食べていた食事も、カロリーや脂質を見て「次からは我慢しよう…」とためらうことがありますよね。今話題の糖質オフは、“食べることを我慢しない”のに痩せたり健康的になれたりするというウワサが。そもそも糖質って? オフするだけでOK? 今回の特集は、そんな糖質オフのギモンを紐解きます。
北里大学北里研究所病院 院長補佐・糖尿病センター長。食べるよろこびが損なわれる糖尿病治療において、いかにQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げていけるかを研究。2013年に一般社団法人 食・楽・健康協会を設立。
みなさんは、テレビやネットの記事で「糖質オフ」「糖質制限」という言葉を目にしたことがありますか?
ここ数年、食事による健康的なダイエット法として私たちの生活で糖質オフが身近になってきていますが、「糖質とは何か?」「どういう食事方法で、体にどんな効果があるのか?」など、きちんと理解している方は少ないのではないでしょうか。
そもそも糖質とは“炭水化物”から“食物繊維”を引いた数値で、食材ごとに高低差があります。例えば、糖質の高い食材の代表は米やパンなど、低い食材の代表はお肉やお魚に加えブロッコリーや卵などが挙げられます。
糖質量の多さは私たちの血糖値(血液中の糖の量)と関係しており、糖質の高い食事をして食後の血糖値がグンと上がると、肥満や高血圧、眠けや倦怠感、動脈硬化症、老化現象などにつながるリスクが高まります。よく、食後に急な眠けにおそわれた経験はありませんか?
世の中においしいものがあふれている現代において、きちんと糖質量に目を向けないと、気づかぬうちに病気のリスクに近づいている可能性があるんです。
糖質“オフ”と聞くと「糖質の高い食材をやめればよい」と考えがちですが、その考えには危険な落とし穴が。ママのなかには、妊娠中であれば体重管理に、産後であればダイエットに糖質オフの食事を取り入れている方もいらっしゃると思うので、この機会にママと赤ちゃんの体に負担をかけず、おいしさと満足感を大切にする糖質オフの食事法を知りましょう。
先ほど、糖質の高い食材を摂りすぎると将来の病気のリスクが高まるとお話ししましたが、一方で糖質は私たちの体のエネルギー源として欠かせない存在。
妊娠中の体重増加も気になるけれど、おなかの赤ちゃんの成長のためには適正な量の糖質も含めてきちんと食べる必要があります。また、妊娠中の体重増加を恐れてエネルギー制限をすると、赤ちゃんの成長の遅れのほか、おなかのなかで食べものや栄養が十分に行き届かなかった分、生まれてから「おいしそうなものがいっぱいある!蓄えなきゃ」と栄養を取り戻そうとして、将来の肥満や糖尿病につながる危険性があります。
そこで、babycoでは「ロカボ」という糖質オフの食事方法に注目しました。ロカボとは、「ローカーボハイドレート(低糖質)」を略した“ゆるやかな糖質制限”という意味です。
1食の糖質摂取量を20〜40gにし、お菓子やデザートなどの嗜好品の10gと合わせて1日の糖質摂取量を70〜130gにしようとする食事法で、おいしく楽しく食べながら適正な糖質量を目指します。
このゆるやかな糖質制限のポイントは、糖質を減らす分「エネルギーを補う脂質+筋肉を育てるたんぱく質+不足しがちな食物繊維を増やす」ということ。
糖質オフの食事を実践する上で、じつは多くの方が見落としがちな部分なんです。
命をつなぐため、そして仕事・家事・育児をがんばるためには体に十分なエネルギーが必要です。しかし、「いっぱい動くから」といった理由でお米をいっぱい食べたりしていないでしょうか。じつは、糖質以外にも私たちの体にパワーをくれる存在がいるんですよ♪
エネルギー源である糖質を減らすと、当然体のエネルギーは減りますね。そこで大事になるのが「脂質」と「たんぱく質」なんです。
脂質とは、植物油やバター、肉の脂身、ナッツ類に含まれる油分などの“良質な油脂”です。古くなった脂や人工的な脂は控えるようにしましょう。
油脂類は糖質量が少ない上にエネルギーを補う働きがあるので、糖質を減らしてもエネルギーを十分に得られる状況を作り出してくれるんです。また、脂質をしっかり摂ることは便秘解消や肌ツヤがよくなることにもつながります。
たんぱく質とは、肉類や卵、一部の野菜などです。鶏むね肉や鶏ささみは低糖質なだけでなく高たんぱくなので、筋肉を育てる食材として筋トレをしている方などがよく食べていますよね。
脂質と同様に、たんぱく質もエネルギーの消費量を上げるので“健康的でやせやすい体質づくり”につながり、冷え性の改善などにも効果的です。筋肉のほか、健康な臓器や皮フなどのためにも必要不可欠な栄養素なので、妊娠中はおなかの赤ちゃんのためにも積極的に食べたいですね。
ゆるやかな糖質制限には、脂質をエネルギーとして燃やすことで、摂取したたんぱく質をしっかりと筋肉に回すことができ、代謝のいい健康的な体になるといううれしい効果があるのです。
「ダイエットに」「糖尿病の症状の緩和に」「食後の高血糖の改善に」など、糖質オフの食事を取り入れている理由は人によってさまざま。自分も取り入れたほうがいいのか判断が難しいですよね。
食後の血糖値は、妊娠していない場合は70〜140mg/dl、妊娠中は食後2時間で120mg/dl未満が正常な範囲と考えられています。この範囲を超える場合は、ゆるやかな糖質制限の食事に切り替えることをおすすめします。
とくに妊娠中は、妊娠していない場合よりも食後の血糖値をおさえることを目標に掲げられているのに、ホルモンバランスの影響で血糖値が上がりやすいという血糖値コントロールがとても難しい時期。また、脂質やたんぱく質のほか、カルシウムや鉄分などさまざまな栄養素をしっかりと摂れたほうがいいからこそ、糖質を減らす分、自由に食材を組み合わせられるゆるやかな糖質制限の食事法であれば心にも体にも負担が少なく続けられます。
そのほかには、妊娠糖尿病と診断された方、ママのお母さまが妊娠中に血糖値が高かったり、ママのご両親のごちらかが糖尿病や高血糖の方などは、遺伝的にママも血糖値が上がりやすい体質の傾向にあるので糖質オフの食事を意識するといいでしょう。先ほどもお伝えしたように、おなかのなかにいるときの環境はとても大切なんですね。
また、若いうちから気にせず糖質の高い食事を続けていると、その時点で“血糖値を上げやすい体質をつくり出している”可能性があります。そのため、今は食後の血糖値が正常な範囲でも、将来の健康を考えて糖質量を意識することは非常に大事です。
食後の血糖値は正常な範囲だけれどダイエットとして糖質オフの食事を取り入れたいという方にとっては、ゆるやかな血糖上昇や体質改善のほか、“食事のストレスのなさ”も大きな支えになります。
みなさんのなかには「ダイエット中なのにドカ食いしちゃった…」「せっかく順調に痩せていたのにリバウンドしちゃった」という経験があるのではないでしょうか。体にとって必要なエネルギー量を教えてくれるのが満腹中枢である以上、空腹に耐えるダイエットでは生存本能ともいえる満腹中枢とのたたかいになり、とても耐えがたいのは当然ですよね。
カロリーにしばられた食事や糖質抜きの食事は、心のどこかで“我慢”が続き、体にも十分に栄養が届きません。
例えば、ダイエットといえばカロリーを制限することを一番に考えがちですが、「1日に○kcal以上は食べない」と数字にしばられる上に、その数字がきつくなればなるほど食べられるものが限定されるので、空腹のストレスが心身に影響しやすくなります。
一時的に体重は落ちますが、落ちれば落ちるほど空腹感が上がっていくので、「ちょっとだけなら…」と糖質の高い食材を食べると、満腹中枢が刺激を受けづらくなってどんどんおなかが空き、空腹感に耐えられなくなります。そして、体のなかでもっともエネルギー消費の大きい筋肉から削ろうとするので内臓脂肪よりも筋肉が落ち、代謝が落ちて太りやすい体質を生み出してしまうんです。
また、極端な糖質制限をしようとすると、糖質の高い食材が食べられない状況になってしまうのでエネルギー不足に陥る可能性があります。
一方、ゆるやかな糖質制限は、糖質の高い食材を控えれば自由に食材を足せる上に、脂質とたんぱく質が満腹中枢を刺激するので満たされる気持ちが長続きします。
おなかいっぱい食べて満腹感が大きいのに、やせやすい体質をつくっているからリバウンドせずすっきりとしまった体に。脂質とたんぱく質はエネルギー消費量が高いので、カロリーのしばりもないのがうれしいところ♪
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みんなどのくらい糖質オフしてる? 妊娠中と産後の糖質オフ調査&誤解しやすい食べ方|食べることがこわくなくなるママと赤ちゃんのための糖質オフ②
イラスト:matsu(マツモト ナオコ)