元高校教員で、現在はフォトグラファー・ライター。 3歳の娘を育てる父で、子どもの顔写真を毎日撮影するプロジェクトを実行中。 ブログ『23時の暇つぶし』 では、娘の成長記録をパパ目線で発信。
今回は、喃語や初語のお話しです。
子どもが生まれてから、時々、こんなことを思います。
「娘が生まれてから、感動的な瞬間に何度立ち会えたことだろう」と。
初めて出会えたとき。小さな体を大切に抱えながら退院したとき。沐浴しながら気持ちよさそうな表情を浮かべているのを目にしたとき…。
きっと、どの家族にも忘れられない特別な瞬間があって、そんな時間を時々思い返して語り合うことが、父となった僕の人生を豊かにしてくれているような気がしています。
そんな僕自身が体験した印象深い瞬間は、娘が初めて言葉を発した「パパ」という初語でした。
今日は子どもの初語と、その後に赤ちゃんがどんな風に言葉を覚えていったのかについて、書いていきます。
宗玄さん家の娘の初語(しょご)は1歳1ヶ月のときでした。
妻が美容院に行って、僕と娘が二人で留守番をしていたんですね。娘に絵本を読み聞かせしたり、積み木で遊んでまったりと過ごしていました。
あるとき、娘を抱っこすると目の前に鏡があった。鏡に写る娘と目が合うと、ふいに娘がはっきり
と言ったんです。
にわかに信じられない気持ちになりながら、
と、頭の中がグルグルと駆け巡ります。
どうにかもう一度呼んでくれないかと、鏡越しに目を合わせながら娘の名前を呼び返すと、もう一度甲高い甘えたような声で「パパ」と言ったんです。
完全に意志をもった「パパ」という言葉でした。
うれしくなった僕はスマホを取り出して動画撮影をしようとカメラを向けて再び娘の名前を呼んでみたけれど、それからはパパとは呼んでくれませんでした。
妻が帰ってきたところで、
と、枕詞をつけながらその時のことを妻に話すと、妻は笑いながら「よかったね」と、信じたような信じてないような口調で返してくれました。
これが、我が家の娘の初語で、僕にとっての特別な瞬間でした。
赤ちゃんの初語から1週間後。
朝から用事のあった妻が、僕や娘が起きる前に家を出ていた日のことでした。
娘は起きると、妻の姿をキョロキョロ探してみたものの、当然見当たりません。
大好きなママがいなくて心細く思ったのか
と言ったんです。
これが初めて聞き取れた「ママ」でした。
初語の前は、「喃語(なんご)」といわれる「あー」とか「ムニャムニャ」と意味のない言葉を声をだす練習のように発していたのですが、「パパ」と言った日から2週間くらいの期間で、
「わんわん(犬)」
「まんま(ごはん)」
「いたっ(痛っ)」
「マ(バナナ)」
といった言葉が、はっきりと聞き取れる言葉で、意味を持って話すようになっていきました。
僕は特別支援学校で教員をしていた経験もあるので、人の成長や発達過程についてもある程度学んだことはあるのですが、少しだけ専門的な言葉で言うと、
喃語をはなしている段階から赤ちゃんは表出(ひょうしゅつ)できる音=言葉を少しずつ増やしていっているんですね。
最初は「あー」とか「うー」とかで、その音に意味はないのですが、徐々に音に意味をもたせていきます。
例えば娘はバナナのことを「マ」と発音して覚えていきました。
「マ!」と一生懸命伝えてくれていた娘に、「バナナあるね」と話しかけていたことで、「マ」が「ナナ」に変化し、いつの頃からか「バナナ」と発音するようになっていったことも印象深く覚えています。
我が家の娘は、一人で歩き始めたのが1歳4ヶ月くらいの頃だったこともあって、歩くよりも先に話しはじめました。
気になって調べてみたところ、歩くほうが先という赤ちゃんもいれば、初語が先という赤ちゃんもいるようですね。
厚生労働省が発表している「一般調査による乳幼児の運動・言語機能について」をグラフにしてみました。
生後7〜8ヶ月で一人歩きのできる赤ちゃんは0%なのに対して、単語を言えるようになっているお子さんは2.2%います。
1歳5〜6ヶ月の部分をみると、100%のお子さんが一人歩きができるようになっていますが、単語を言うのは89.1%です。
グラフ:厚生労働省「乳幼児の運動・言語機能について」より
もちろん、赤ちゃんが歩きはじめるようになる時期にも、話しはじめる時期にも個人差があるので、どちらが早い方がいい!ということはありませんし、時期も人それぞれです。
我が家では、赤ちゃんがしゃべり始めるまでのことを振り返ると、赤ちゃんの反応がなくても、たくさん話しかけたり、絵本を読み聞かせしていました。
この2つは子どもの成長にとてもよかったと思っているのですが、そう感じた印象深い出来事があったので、お伝えします。
娘の初語から1ヶ月半が経った頃。
娘は僕のことをパパと呼ぶことをえらく気に入っていて、朝起きて「パパ」、絵本を開いて見せて「パパ」と、いつでも「パパ」と声をかけてくるようになりました。
僕がキッチンにいて娘から離れたところにいると、大きな声で「パパ!」と力強く呼ぶときはとてもかわいく、1ヶ月半前の初語が随分遠い昔のように感じるようになっていました。
さて、初語から1ヶ月半で娘の言語理解はどうなっていったのかと整理すると…。
表出できなくても、理解している単語が格段に増えていました。
初語から1ヶ月半で、娘は僕たちが発する「手」や「髪」や「口」といった音と、自分の体の同一箇所がマッチングできるようになっていたんですね。
娘に
「手はどこ?」と尋ねると、両手を合わせて「て」と言ったり、
「髪は?」と尋ねると髪の毛を触り、
「足は?」と尋ねるとバタバタ足踏みして、
「耳は?」と尋ねると耳を触る。
「口は?」と尋ねると口に手をもっていって「あー」と発したりしました。
これはつまり、自分から「髪」や「足」といった言葉は発せなくても、言葉の意味と自分の体がマッチングできていることを示しています。つまり、言葉で伝えられなくても意味は理解しているわけですね。
子どもは、心の中では理解しているけど、表出できずに話せていない単語はたくさんあるということを僕自身の経験をもって確信できたことは大きかった。
だからこの場でも、子どもにはたくさん話しかけてあげると良いということを自信をもってお伝えします。きっともっと幼い頃にも、子どもはわかっていることがたくさんあるはず。
これって意味あるの?と思わず、たくさん子どもに話しかけて伝えてあげてください!
この記事を書くために当時撮影した動画をたくさん見返しましたが、娘と共有したいろいろな出来事を思い出しました。
子どもがオムツ交換のときに逃げ回っていたこととか、僕が鼻をかんでいる音や姿に爆笑しているところとか、深夜3時に覚醒してしまって暗い部屋の中を手押し車で徘徊しているところとか…。
そういえばこんなことがあったなと忘れかけていた記憶の引き出しから当時の光景が鮮明に蘇ってきました。
それまでできなかったことができるようになった瞬間に立ち会えたときのこともよく覚えています。
ひな祭りの日に初めて寝返りをして妻と顔を見合わせたこと。
僕と妻の間の短い距離を初めて歩いた日のこと。
写真や動画には、そういった特別な瞬間を一瞬で思い出してくれる効果があって、子どもと過ごしたかけがけのない時間が鮮やかに蘇ってきます。
今、この瞬間も、数年後にはきっと特別な時間として思い出すような気がしていて、この文章を書きながらニヤニヤしています。
写真/宗玄浩
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