babyco編集長。書籍編集者。
新潟の山奥で肉用牛を飼育しながら、野菜やくだものを育てる祖父母のお手伝いをきっかけに、丹精込めて作られた食材のおいしさ、食べることや命の大切さを学ぶ。特集記事、離乳食やママごはんなど幅広く担当。ママ・パパの気持ちに寄り添った記事の制作を心がけている。
おなかを痛めてわが子を産むママに比べて、パパは父親としての自覚を持ちにくいと言われています。しかし、子育てにおいてパパはれっきとした“当事者”。babycoでは、この自覚を「パパ意識のスイッチ」と考えました。パパにしかないこのスイッチ、どうやってONするのでしょう?
「パパ意識のスイッチの見つけ方」前編では、現在4歳になるお子さんをお持ちの森口佑介先生に、当時の気持ちを思い出していただきながら気持ちを語っていただきました。後編では、子どもと関わり続けることで得た父親としての心の変化や気づきをお話していただきます。森口先生がいつもお子さんとしている遊びや会話のようすなど、プライベートなお話も♪
編集長(太田):
関わり続けたことで子育ての流れがつかめたということですが、お子さんへの見方も変わりましたか?
森口先生:
他人事だったときは、ほかの赤ちゃんを見るのと変わらない感じでした。でも、関わり出してからは、
自分が何かしたら笑顔を向けてくれたり、よろこんでるのかなというのが具体的にわかったりして、“父親としての愛情”に変わったような気がします。そのおかげでまた楽しくなって、もっと関わりたいと思える。自分がやったから笑ってくれた!という幻想を抱けるかどうかが、パパが子育てをするときに大事なんだと思いますね。
編集長(太田):
子育ての幻想…!! たしかに、自分のことが好きで笑顔を向けてくれてるって思うと好きになっちゃいますね。
森口先生:
生後すぐは、顔の筋肉がピクッと動いているだけなんですけどね。研究でも、生まれたばかりの赤ちゃんのちょっとした笑いというのは、うれしさを意味しているわけではないというのはもちろんわかっちゃいるんですが、とはいえ
関わっていると、私のことが好きだから笑ってるんだろうなって思うわけです(笑)。
編集長(太田):
森口先生の率直なご意見を聞きたいのですが、かわいいと思っていてもイラッとしちゃうことはありますか? というのも、最近ニュースで報道されているように虐待に関する事件が増えていて、自分の子どもでもそうしてしまう人がいるのも現実だと思うんですけれど…。
森口先生:
誰でもイラッとすることはたくさんありますよね。虐待という行動に出すことはまちがっていると思います。でも子育てはストレスのかたまりなので、
イライラしないほうが逆におかしいというか。私でいうと、娘がちょっと大きくなって鏡か何かを割ったことがあって。「それ持ったら絶対に割るからね」って言ったのに、面白がって落として割ったんです。そのときに「言ったでしょ!」って。絶対だめだというのをこちらが先に伝えていたのに、案の定割っちゃった。でも子どもってそんなもんだよなって思うんですけれど、一瞬イラッとすることはありますよね。着替えたがらないとか、お薬を飲みたがらないとか、
当人のために大事なことなんだけれどやらないときとか。
編集長(太田):
段取りが進まないわけですもんね。それって、段取りが進まないことにイライラするのか、その子自体にイライラしちゃうのかどちらなんでしょう?
森口先生:
おそらく、段取りがうまくいかないのが、そのうち「この子のせいだ!」ってなってしまうのかもしれません。
子どもはもう赤ちゃんのときから一人の人間であって、自分とは違う人間なんですよね。赤ちゃん自身に好みがあればいやなこともあるというのをちゃんと理解してあげないと、なんで私の思う通りにやれないんだ!っていう風になっちゃうのかなと。「今、これはこの子はいやなんだな」とか、
自分とちょっと切り離すといいのかもしれません。
編集長(太田):
上手な切り離し方ってあるんですか? そもそも、自分と同じであってほしい、理解してほしいと思ってしまうんでしょうか。
森口先生:
どうしても私たちは、そういう風に思っちゃいたいという気がするんですけど、実際に関わってみると自分とは全然違うことを言って、考えて、好みをもっている人間なんですよね。
こういうストレスを感じる経験をある程度しないと、それは理解できないと思います。「おれは関わらなくていい」じゃなくて、
がんばって関わってストレスを感じることで、なんでも受け止められるようになるんじゃないかな。
編集長(太田):
思い通りにいかない子育ての日々のなかで、どんなときが楽しいと感じますか?
森口先生:
そうですね、今はもう子どもも4歳になるので…。
自分が想像しなかったことを子どもがやったり、こんなこと教えてないのに!ってことができているとか、そういうのを見るのが楽しいですね。3歳ながらも女子っていうのがあるのか、すでに人間関係に悩んでいますよ。「あのこがなかなかあそんでくれないのよ〜」って(笑)。この歳でもうそんな悩みがあるのか!って、そういうの見ていると楽しいなぁって。
編集長(太田):
かわいらしいお悩みですね。いつもどんな会話をするんですか?
森口先生:
今日保育園でどんなことがあったの?って聞くと、こういうことがあって…とか、こんなことがあってどうしよ〜…とかね。自分の小さいころを思い出しながら、自分が好きだったものを娘も好きだと、
自分の人生を重ねる部分があって楽しいなと思いますし。時代のせいなのか性別のせいなのかはわからないですけれど、こういうことは考えたことなかったなぁとか。自分とは違う人生を生きてくれていると感じるときが結構楽しいです。
編集長(太田):
たくさんコミュニケーションをとっているんですね。ちっちゃくても、コミュニケーションはとれるものなんですか?
森口先生:
赤ちゃんでも、笑ったり遊んだりできるのでコミュニケーションはとれますね。どのおもちゃを選ぶか、どれから食べるか、そういうのひとつとってもコミュニケーションですし、わが子の好みがわかるわけで。
編集長(太田):
森口先生は、娘さんが「これが好き」と選んだもの、したいことなどを尊重したいと思いますか?
森口先生:
はい、尊重してあげたいですね。子育てにおいて妻と一番共有していることは、「
自分で考えられる子になってほしい」ということです。研究でも示されていることなんですが、「自分で考えて、それをやりきる」というのはとても大事なんです。自分で選んだ分、自分で責任をとる。自分で選んだおもちゃなんだから最後まで遊びなさいとか、自分が食べたいって言ったんだから食べきりなさいとか。必ずしもうまくいかないですけれど、自分で選ぶことというのは大切にしたいですね。
編集長(太田):
遊びの話に戻りますが、お子さんが赤ちゃんのころはどんな遊びをしていたんですか?
森口先生:
0歳のときは、たかいたかい、歌をうたう、ボールを転がす、追いかけっこなどでしょうか。パパはママよりも体が大きいし力があるので、肩車とか
体を動かす遊びをすると特別感があってよろこびますよ。
編集長(太田):
すごく遊んでいるんですね。ちなみに最近は?
森口先生:
最近はごっこ遊びですね。保育園ごっこ、お医者さんごっこ…。
編集長(太田):
保育園ごっこって?
森口先生:
娘は保育園の先生がすごく好きなんで、保育園の先生になりたいみたいで。私がぬいぐるみを持って、お父さん役で「おはようございまーす」って保育園に行くみたいな(笑)。あと、私は高校時代ラグビー部に所属していたので、昨年のラグビーワールドカップの期間はラグビーごっこをしてましたよ。「リーチ!」って言いながらボールを持って走って(笑)。そうやって、
パパの趣味を子どもと共有するのもいいと思います。なにより
パパ自身が楽しんで遊ぶ姿を見せられるというのがいいと思いますし、子どもたちの遊びにも応用できますからね。
編集長(太田):
好きなものをいっしょに楽しめるってうれしいですね。パパとしての自覚が芽生えて、森口先生の心や生き方に変化はありましたか?
森口先生:
「
この子のために、まだ死ねないな」と思いましたね。子どもが生まれる前はわりと不規則な生活でしたが、お酒の量も減って食事もかなり気をつけるようになって。子どもの成長をこれからも見たいのでね。
編集長(太田):
そうですよね、森口先生や奥様がいなくなったら、娘さんは生きていくことができないから…。父親、もしくは夫婦にとって、子育てってなんでしょう?
森口先生:
趣味にしてはいけなくて、生活にしなきゃいけないということですかね。イクメンなんて言っている間はたぶんだめで。子どもをちゃんと育てるという大きなプロジェクトのために、
より夫婦が連携する必要がある。共通の目標があるっていうのは、すごくいいことなのかなと。
イラスト:ヒダカマコト