babyco編集長。書籍編集者。
新潟の山奥で肉用牛を飼育しながら、野菜やくだものを育てる祖父母のお手伝いをきっかけに、丹精込めて作られた食材のおいしさ、食べることや命の大切さを学ぶ。特集記事、離乳食やママごはんなど幅広く担当。ママ・パパの気持ちに寄り添った記事の制作を心がけている。
赤ちゃんのお世話や授乳など、ただでさえ疲労困憊なママ・パパをさらに悩ませるのが「夜泣き」。なぜ夜泣きをするのか、理由がわからないとどうしたらいいかわからず、つらいですよね。
夜泣きの理由をネットで調べてみると、「大人に比べてねむりが浅い」「空腹」「おむつの不快感」など、さまざまな理由が挙がっています。ですが、夜泣きの理由は「脳」とも関係があるようです。
これを読めば、夜泣きに対する見方や考え方が変わる! 脳科学の視点から紐解く、赤ちゃんのねむりのお話です。
玉川大学准教授。ねむっているときの赤ちゃんの心の声(脳波)に耳を澄ます。音が出る絵本やプラネタリウムのキッズプログラムの監修も行う。目指すは「宇宙から赤ちゃんまでを語れる科学者」。
夜泣きの理由で「おなかが空いている」というのをよく耳にしますね。
時間が経ち、夜になっておなかがペコペコなのかな?と想像しますが、じつは赤ちゃんの胃袋ではなく、脳がおなかを空かせているんです。
私たちは、脳や体を動かすために食事をしてエネルギーを得る必要があります。赤ちゃんにとっては、母乳やミルク、離乳食がエネルギー源ですね。
大人の場合、摂取したエネルギーの約20%を脳の活動に使いますが、赤ちゃんの場合は、なんと約65%を脳の活動や成長に使います。
夜に寝ている赤ちゃんがわんわん泣いて空腹サインを送っているのは、脳が「成長するためのエネルギーが足りないぞ!泣くんだ」と指令を出しているから。
体を大きくするために食べる、筋肉をつけるために食べるという風に考えられがちですが、摂取したエネルギーの半分以上が脳に使われるということは「脳のためにごはんを食べている」といってもいいくらいなんです。
でも、昼夜関係なく赤ちゃんの脳は成長しているだろうし、寝ている間は脳も休んでいるはずなのに、どうして夜中に泣いてまで空腹サインを知らせてくるの?と思いませんか。
それは、私たちが寝ている間に、脳はとてもよく働くからです。
脳は、昼間は昼間の働き方、夜は夜の働き方をしながら、24時間フル稼働しています。昼間は体を動かすために筋肉に指令を出し、夜は脳と体が育つために活動しているようなイメージです。
日中、私たちの体を動かすために必死で働いている脳にとって、体の動きがぴたっと止まる睡眠中はクールダウンできる唯一の時間。
私たちが寝始めると、今度は脳と体の成長のための働き方に切り替えます。
大人の体は予備のためのエネルギー(脂肪)をたくわえているので、夜中に「何か食べないと脳が働かない」となることはありませんが、赤ちゃんは違います。
体に十分なエネルギー(脂肪)をたくわえていないので、少しでもエネルギー不足が長引くと「細胞をつくれないぞ!」脳のネットワークをうまくつなげられないよ~」とSOSを出し始めます。
夜、寝ている間に赤ちゃんの脳と体がすくすく成長するために、ママやパパにエネルギー不足を知らせているんですね。
親にはつらい夜泣きも、脳と体の成長のために一生懸命泣いてごはんをもらおうとしていると思うと、がんばってるな、わが子!と思えるかもしれません。
脳科学の視点から、泣く理由としてもうひとつ考えられるのは「寒さ」です。
赤ちゃんの体温は、寝つきのときにぐっと上がります。体温を上げるのは、寝ている間にクールダウンできるように、これまた脳が「熱よ、出ていけ!」と指令を出すからです。
大人の体のように皮フの表面積が大きければ、寝ている間に体の毛穴からすっと熱を放出することができます。
しかし、赤ちゃんの小さな体では熱を放出するための面積が少ないので、小さな体全体をパンパンに熱くして、熱を放出しているんですね。
寝ついてから10分ほど経つと、赤ちゃんの体温は少しずつ下がっていきます。赤ちゃんは動きながらねむるので、布団をかけたつもりでもしばらくしてかかっていないと「寒い!」と“脳が”感じ、SOSを知らせるために泣くことがあります。
私たちの脳には、暑いかどうかよりも、寒いかどうかに反応する神経がとても多く集まっています。そのため、少しでも寒いと感じる環境にいると、脳はすぐに「寒くて危険だぞ!」とアラートを出します。
それは、寒くて体が冷えると、体の熱が逃げすぎて脳の温度(約37.5℃)をうまく保てなくなり、生死に関わる危険があるからです。
また、「泣く」というのは赤ちゃんがママやパパにサインを送る手段でもありますが、赤ちゃんにとって体温を上げるもっとも効率のいい方法でもあります。
顔を真っ赤にすることは、全身に血液をめぐらせている証拠。そうすることで筋肉を収縮させ、熱を生み出すことができるのです。だから赤ちゃんの「泣き」は一生懸命、熱を出しているんですね。
これもすべては脳からの指令。赤ちゃんの脳って、とってもかしこい!
寝かしつけのときは涼しく、ちゃんと寝たらあたたかくしてあげると、もしかしたら寒いということが原因で夜泣きをすることは少なくなるかもしれません。
赤ちゃんがぐずって寝てくれない…親にはつらい寝かしつけあるある。夜泣きを脳科学の視点からみてみると、赤ちゃんが泣き止むにはどうしてあげたらいいのかもわかってきます。
夜、赤ちゃんが泣いて起きたら、ママでもパパでも「だっこして歩く」を試してみてください。お子さんをだっこしながら、お部屋のなかを少しぐるぐる歩くイメージです。
だっこして動くと、赤ちゃんの動きは止まるんです。
歩くことで、だっこされている刺激(触れられる感覚)が赤ちゃんの脳に届き、安心して寝落ちするんですね。
だっこ+運動の刺激を届けることがポイントなので、歩きながら「よしよし」と背中をトントンしてあげるのもいいでしょう。
これは「仔運び行動」というほ乳類共通の性質で、動物でも、親ネコが子ネコの首根っこをくわえて運んでいたりしますよね。運ばれている子ネコを見てみると、絶対に動かないんです。
また、この「だっこして歩く」方法は、ママやパパに“触れる感覚”も赤ちゃんの脳に届きます。
「触れる感覚」「触れられる感覚」の両方が届くことで、脳には豊かな刺激となり、安心感につながるとも考えられています。
お子さんが泣いて困ったら、ほ乳類としての性質に戻ってみましょう。