babyco編集長。書籍編集者。
新潟の山奥で肉用牛を飼育しながら、野菜やくだものを育てる祖父母のお手伝いをきっかけに、丹精込めて作られた食材のおいしさ、食べることや命の大切さを学ぶ。特集記事、離乳食やママごはんなど幅広く担当。ママ・パパの気持ちに寄り添った記事の制作を心がけている。
最初の習いごとは何がいいのかな?
ほかの家では何歳から習いごとを始めているんだろう。
子どもの習いごと選びって、やってみて好きか苦手かがわかったり、先生との相性が見えてきたりするから悩みますよね。
それに、言葉を覚えるのも体も成長もこれからなのに、小さい頃から習いごとをさせて意味あるのかなって。
子育てをしていて一度は考えるであろう「子どもの習いごと選び」について、babycoママ・パパから寄せられたお悩みやギモンを交えながら大切なお話をしていきます。
「英語が話せたら、将来役にたつかな」
「体操がこの子の特技のひとつになったらうれしいな」
お子さんの習いごとを考えるときって、きっと親がワクワクする気持ちもありますよね。
子どもに合うかどうか、ちゃんと身につくか、長く続けられそうか…そんな不安な気持ちもあるだろうけれど、たくさんのママ・パパにお伝えしたいのは、0歳からの習いごとは「新しい世界が広がる窓口のひとつ」くらいに考えてみるといいと思います。
キラキラした大人に出会って、いろんな価値観や考え方、素敵な生き方を知る。それが生涯にわたって、大きな力になっていくんじゃないかと思うんです。
ママやパパが自分にかけてくれる言葉、教えてくれる物事の考え方や生き方。親からもたくさんの刺激をもらえるのに、どうして新しい世界に解き放ってあげる必要があるの?って思う方もきっといますよね。
それは、ママやパパだけで子育てをしていると、お子さんが“固まった価値観”にしばられてしまう可能性があるからなんですね。
例えば、あなたがお子さんと一緒に外国語のお教室へ体験に行ってみたとします。そこで出会える先生たちって、中国人の方、イギリス人の方、アメリカ人の方と、いろいろな国の方々がいますよね。
生まれてまもないから日本語もまだうまく話せないけれども、「世の中には違う言語でお話ししないと伝わらない人もいるんだ」ということを先生たちに出会ってはじめて知る。
学校でも会社でもグローバル化が進んでいる今、こうした“自分とは違う生き方”を知ることは、これからいろんなおともだちや人とコミュニケーションをとる上でとても大切な価値観になるのではないでしょうか。
ママやパパだけの世界では、きっとわからないことだと思うんです。
また、子どもの頃の将来の夢って「人」にあこがれて決めたりしますよね。パティシエ、お花屋さん、最近だと動画サイトで活躍している方も。子どもの頃に出会ったキラキラした大人って、あこがれであり、目標でもあったりととても大きな存在になるから、習いごとで素敵な大人に出会えることは子どもの夢が広がることにもつながるんじゃないでしょうか。
0歳からの習いごとは「新しい世界が広がる窓口のひとつ」くらいに考えるといいとお話ししましたが、とはいえ、親としてはお金を払ってプロの先生たちに習うからには、子どものスキルの習得を期待したくなりますよね。
水泳なら25m泳げるようになってほしい。ピアノなら上達して難しい曲も弾けるようになってほしい。
でも、スキルの習得が一番の目的になってしまうと、自分たちが思い描いている子どもの活躍している姿ややらせたいことに対して、ちょっとでもできないと「なんでできないの!」「なんで練習しないの!」ってイライラしてしまう。
せっかく親子で習いごとをがんばろうと張り切っていたのに、親に怒られることでお子さんは自信をなくして、ママやパパはお子さんにイラついてしまっては、とてももったいないと思いませんか。
子どものスキルが伸びるというのは、じつはもうちょっとあとだったりします。
発達の順番として、
最初に「自己肯定感」のうつわをはぐくむ
▼
そのうつわに入れるスキル
(知識、技、ルール、規則、モラルなど)
のお水を入れる
ということが大切です。そうすると、お子さんは自然と「今はこれをやるべきだ」「こっちのやり方を試してみよう」「これは守らなくちゃいけないことだ」という風に、自分でお水をくめるようになって、頭のなかに入れるようになるんですね。
スキルというのは、人に言われてやらされるとほんの少ししか伸びないのに、自分でやりたいと思って考えてやるとグングン伸びるんですって。「やりたい!」という気持ちのパワーってすごいです。
こうしなさい、ああしなさいって導きたくなる気持ちもわかるけれど、子どもが「こうしてみたい」と思って“自分で考える芽”が出てきたとき、自分のやりたいほうへ進めないと気づいた瞬間、とても苦しくなりますよね。
そうした芽を枯らさないために、スキルを習得するという考え方をいったんお休みして、まずは習いごとを通じて自己肯定感を育てるというのが、スキルを入れる前にママやパパがお子さんにしてあげてほしいことです。
いろんな子育てサイトや雑誌を読んでいて、「自己肯定感」というキーワードを目にしたことがあるママやパパは多いでしょう。
自分を認めてあげることがどうして大切なのでしょうか。それは、自己肯定感がはぐくまれることで大人になってからも役に立つこんな力が身につくといわれているからです。
新しいことをやってみたい!
新しいおともだちと出会ってみたい!
新しいところに行ってみたい!
チャレンジ精神が旺盛だと、新しい世界に飛び込むことを恐れないからどんどん刺激あるほうへ進んでいけますよね。
知識や技を得て、多くの世界を知って、いろんなおともだちが増えると子どもの「経験」が豊かになる。
やってみて失敗もするだろうけれど、“新しいことにチャレンジした”ということ自体が大きな自信につながるし、自分で決めて実行したことだから「次はこうしてみよう」と自分の行動を前向きに考えられるようになります。
習いごとでも学校の勉強でも何でもそうですが、新しいことに挑戦するときって
挑戦してみたい自分
と
できるかどうか不安な自分
のふたりが自分のなかに生まれませんか?
不安な気持ちのほうが強いと、そもそも挑戦すること自体を諦めちゃったり、できなかったときに「どうせ自分なんて…」と自己“否定”感にとらわれたりしてしまいやすいです。
ですが、できなかったことを努力して乗り越えようとした経験があると、どんな場面でも「私は私だからできる!乗り越えられる!」と自分を勇気づける言葉がけができます。
そして、できるようになるまであきらめずに努力してまたひとつ壁を乗り越えられたときに、できた自分を認めてあげられる子になります。
最後は「生きる力」に大きく関わってくるのですが、自分を認めてあげることができると、相手の立場に立って物事を考えられるようになります。
家族やおともだち、大人になったら職場の人、海外に行ったら外国の人など、私たちは生きていくために周囲の人たちとコミュニケーションをとって助け合います。
そのときに、自分と違う考え方をする人がいたら無視したり、思うように動いてくれない人を責めたりしていたら、いつか味方が消えて助けてくれる人がいなくなってしまう。
「ぼくはこう考えたんだけど、君はそう考えたんだね! どうしたら考えを近づけられるかな?」「私はこう思ったんだけど、あなたのその考えも素敵だわ」
そうやって、自分の意見も大切にしながら相手にも寄り添うことができるようになると、視野がどんどん広がって多くの人を受け入れられるようになります。そして、相手にも受け入れてもらえるでしょう。
お子さんのなかには、相手の考えを優先しすぎて自分の意見を言うのが苦手な子もいますよね。また、ママやパパから見たらおりこうさんでも、「大好きなママやパパを困らせてはだめだから、ほんとはこう思っているけど言わないでおこう」と、意見が言えない子もいるかもしれません。
相手の立場に立って気持ちや状況を考えてあげられるやさしい子なんだけれど、それも“本音を話して相手を困らせてしまう自分はだめな存在だ”と、自分を認めてあげられないことなのかもしれません。
もしもお子さんがそんなようすを見せたら、一番の味方であるママやパパが「○○ちゃんはそう思ったんだね」「ほんとはそうしたかったんだね」と、子どもを認めてあげる言葉をかけてあげてみてください。
きっと「ママやパパがわかってくれた! 本音を言ってもいいんだ」と自分の考えに自信が持てて、自分の考えや意見をはぐくめるようになります。
先ほど、スキルの習得を急ぐ前に、まずは自己肯定感のうつわを育てていこうというお話をしました。
また、子どもにとっての自己肯定感の大切さもお伝えしたところですが、習いごとで自己肯定感をはぐくむためには何が大切なのでしょう?
習いごとの内容? 先生? レベル?
答えは「先生」なんですね。
記事の最初に“キラキラした大人”のお話をしたように、子どもがどんな先生に出会うかはとても大切です。「子どもの自己肯定感を一緒にはぐくんでくれる先生」に出会うというのが、大切なポイントなんです。
では、どういう先生が子どもの自己肯定感のうつわを大きくしてくれるのかというと、“子どもを認める言葉をかけてくれる先生”です。
何をすると自己肯定感のうつわが大きくなるのかというと、やっぱり“言葉がけ”なんですね。子どもが何かしようとしたときに「こうしたほうがいいよ」ということではなくて、やったことに対して「なるほど、そうしたのか!」と認めてくれる。
例えば、お教室に行ってもみんなと一緒にやらないで、隅っこでジーっとアリさんを見ている子がいると。
先生としてはなんとしてもやらせたいから「アリなんか見てないで、みんなもやっているから一緒にやってみよう!」と声をかけてしまいがちだけれど、その子にとってはアリ“なんか”じゃなくて、いますごく興味のある存在なんですね。
まずは「アリに興味を持つなんてすごいね!」というところから、子どもを認めて自己肯定感を育ててくれる。
そうすると、子どもは「この先生ならぼく・私がやりたいことをわかってくれる」と思えて、先生のお話(講座)に耳を傾けられるようになり、習いごとの内容に目がいくようになる。
これも、自分でうつわにお水を入れる立派な行為です。まずは、お子さんが興味を持っていることに一緒に興味を持ってくださる先生というのが大切だと思います。
反対に、子どもを否定するような先生はちょっと注意が必要かもしれません。
あえて「君はダメな子だ」と言う先生はいないと思いますが、「そっちに行かないでこっちに並びなさい!」だとか。これもちっちゃな否定なんです。
あとは、子どもが「やりたくない」と言ったときに「やりたくないなんて言わないの、君ならできるよ!」と声をかける先生。
この声がけって、子どもを勇気づけるいい言葉のように聞こえますが、言われた子からすると「ぼく・私のことを先生はわかってくれない…」とつらい気持ちになってしまうんですね。
子どもが発する「やりたくない」という言葉は、じつはすごく幅広い言葉のなかの“凝縮された言葉”なんですね。
みんなが見ているところではやりたくないけど、先生だけが見ててくれるならやりたい
はだしだからやりたくない
という風に、言葉のうらには子どもがうまく説明できない複雑な理由がいっぱいあります。
やりたくないって言われると、ついそのまま受け止めてしまいそうになるけれど、その「やりたくない」という言葉のうらにある子どもの想いに気づいてくださる先生に出会いたいですね。
親からすると、「パパ」と呼んでくれたり「おーしー(おいしい)」と言えるようになったりしただけで言葉がしゃべれてる〜!って思っちゃいますが、とくに0〜2歳の子どもたちは複雑な思いを整理して先生に伝えるなんて、まだまだ難しい。
「やりたくない」といった“簡単だけれど複雑な思いが隠れていそうな言葉”を子どもが言ったときに、「どういう思いでこの子はぼく・私に言ってくれたのかな?」と考えて、会話をしながら思いを引き出してくれる先生は安心してお任せして大丈夫だと思いますよ。
習いごとを通じて子どもの自己肯定感を育てるには「先生」との出会いが大切だとお伝えしましたが、いい先生に出会えたら任せておけばOKというわけではありません。
せっかく子どもの成長を一番近くで応援してあげられるのだから、ママやパパも一緒に支えてあげましょう♪
「やりなさい!」と鬼監督になる必要はないですし、子どものコーチとして親も猛練習する必要もありません。
習いごとは“努力の仕方を親子で学んでいく時間”と考えて、わが子が自分なりのペースでがんばれる方法を探ってみましょう。
どういうときにやりたくなるのかな?
どういう状態だとがんばれるのかな?
こういう風にやったらやる気が出た!
というのを、親もやりながら発見していくような感じです。
「あなたのペースで成長していこうね、ママもパパも応援しているよ!」というスタンスでいられると、子どももプレッシャーを感じずにのびのびと取り組めます。
それに、もし習いごとを途中でやめることになったとしても、子どもががんばれる方法を見つけられたら「無駄じゃなかった! 意味があった!」と思えそうですよね。
最後に、今回の習いごと特集でハッとしたことをbabyco編集長の私から少し。
私は6歳からヒップホップダンスをやっています。保育園で先生が教えてくれたソーラン節が楽しくて、近所にダンススクールができたから見に行きたいと母にお願いしたのがきっかけです。
ヒップホップを選んだのは、踊るときの大きな動きがソーラン節に一番似ていたから。
いまでこそ、体育の必修科目になったり教育テレビで番組が組まれたりするほどキッズのヒップホップダンスはメジャーになりましたが、当時はヒップホップ=子どもに悪い影響がありそう、チャラチャラしていると感じていた親御さんもいたと思います。
ですが、私の母は「やりたい」という子どもの気持ちを素直に受け入れてくれました。大人になったいまでも生きがいなので、出合わせてくれた母にはとても感謝しています。
今回、NHKの人気番組『すくすく子育て』の元キャスターで多くの親子と接してきた天野ひかりさんに取材をさせていただいて、私の母の習いごとに対する関わり方をほめていただけました。
ヒップホップに詳しくないのにどう支えてくれていたかというと、
● 子どもが踊る曲を一緒に楽しんで、ノリノリだった
● 「○○先生の踊り、かっこいいね!」と私のあこがれの先生をほめていた
● 親に見てもらえているとやる気が出るタイプだったから、レッスンの終了間際にこっそり見ていてくれていた
● 「上手に踊れてないよ」と否定することは一切言わなかった
● 「○○ちゃんのほうが上手だよ」とほかの子と比較して否定することは言わなかったし、「○○ちゃんより上手だよ」とほかの子を比較対象にしてほめることもしなかった
● ほめるときは「できるようになったね!」と成長を認めてくれていた
● 先生やおともだちのお母さんにほめられたときに「ありがとうございます」と素直に受け止めていた
というような感じでした。
天野さんによると、
・一緒に楽しんでいる
・どうしたらやる気になるかを知ってる
・ほかの子と比べない
・「うちの子なんて」と謙遜しない
というのが大きなポイントみたいです。その理由は、次回お話ししますね♪
私がお世話になったダンスの先生は、子どもだからって容赦しないくらい指導が厳しいときもあったけれど、かっこよく踊れたときは頭をワシャワシャしてほめてくれたり、私の踊りを見て「今日何かいやなことあった?」とその日の気分を見抜けるくらい、生徒ひとりひとりを見てくれていたと思います。
先生にあこがれて、ダンサーになりたいと思ったほどです。
先生と親、2つの大きな支えのおかげで、大人になって仕事でめげそうになったときも「あのときを思い出してがんばるんだ!いけるぞ!」と強い心で壁を乗り越えられている気がします。
天野さんへの取材で、点と点がつながった気分でした。
>>習いごとのお話の続きはこちら!
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子どもが習いごとを「やめたい」と言ったらどうする?『すくすく子育て』元キャスターの天野ひかりさんがお悩み&ギモンにお答え!
お話を伺った先生:天野ひかりさん
上智大卒。元テレビ局アナウンサー。NHK『すくすく子育て』キャスターとしての経験を生かし、子どもの自己肯定感を育てるコミュニケーションアドバイザーとして全国で講演やシンポジウムなどを務め、受講生は5万人以上。子どものやる気やわくわくを引き出す“習いごとの先生のための講座”も開講。著書に『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』ほか。
オフィシャルWEBサイト:https://amanohikari.com/
イラスト:山村 真代