“ゆるまじめ”な子育て応援メディアbabyco編集部です。妊娠・出産・育児というライフステージで大変なママもパパが、ゆる~く、でもまじめに学びながら、 子どもと共に楽しく成長するためのヒントをご提供するのがモットーです。
「抱き癖が心配」というパパママへ。
今回は、スキンシップが赤ちゃんやママに与える影響について研究をしている、身体心理学・健康心理学の専門家、山口創先生に、さまざまな実験・研究から「抱っこの謎」と赤ちゃんとのスキンシップについてお話しいただきました。
「だっこで脳はしあわせになり、強く優しく賢い子に育つ」という書籍も出版されている山口先生。 今回は、とくに「抱っこ」について、科学的視点からお話を伺いました。
赤ちゃんがよろこぶ抱っこの仕方、ベビーマッサージなどのスキンシップについても教えていただきましたよ。
山口 創
博士(人間科学)桜美林大学リベラルアーツ学群 教授 臨床発達心理士
子どもに触れることの影響やタッチングの質について研究。著書に『幸せになる脳はだっこで育つ』『子供の「脳」は肌にある』ほか。
赤ちゃんは抱っこが大好き!
ママがちょっと離れると一生懸命に泣いて訴えますよね。
あまりにも「抱っこして、抱っこして〜」とせがまれて、抱き癖がつかないか? と心配になるパパ&ママもいるでしょう。
また、抱っこしてあげると泣き止むからしてあげたいのに、周囲から「抱き癖つくんじゃない?」と言われて躊躇してしまうこともあるかもしれませんね。
どうして赤ちゃんはこんなにも抱っこが好きなのでしょう?
赤ちゃんは歩けないしひとりで何もできないから抱っこが好きなのでしょうか?
もちろんそれもあります。
でも、じつは、抱っこには赤ちゃんの成長にかかせない大切な秘密があったんです。
今回は山口先生に、「抱っこ」について、科学的視点からお話を伺いました。抱き癖が心配というパパ&ママ、必読ですよ。
初めてママパパになる方のなかには
と思っていらっしゃる方もいるかもしれませんが、それは間違いです。
乳幼児時期は感覚器官が、生涯の内でもっとも伸びる時期で、赤ちゃんは生まれてすぐに
の5つの感じる力(五感)をフル活動させ、周囲の情報をぐんぐんと吸いとっています。
そこで、「心地いいのか」「心地が悪いのか」を感じとり、泣いたり笑ったりして、その瞬間の感覚をママやパパに伝えているんです。
赤ちゃんが感覚を得る部分で重要なのが「肌(皮膚)」です。
そして、感じとる力を育てるのがスキンシップ、特に「抱っこ」です。
赤ちゃんにとって肌のあたたかい感覚はとても大切。
赤ちゃん自身はまだ体温を自分でコントロールができないので、あたためてあげる必要があるからです。
赤ちゃんに寝巻を何枚も重ね着させるよりも、ママが抱っこしたほうが温度が上がるという実験もあります。
そしてこのような
「あたたかい肌の感覚」
と
「安心感」や「心地よさ」
をセットで経験すると、
と思えるようになり、安定した愛着が築かれていきます。
小さい赤ちゃんはずっと抱っこを求めてきます。
それは、肌にママの身体を密着させていないと不安になるからです。赤ちゃんから幼児期にかけて、あたたかいスキンシップがたくさん得られると、安心してあたたかい気持ちを抱きやすくなり、心の情緒もどんどん作られていきます。
家事に忙しいときでも、「〜しながら抱っこ」でいいので、できるだけ肌を密着させてください。
人とのふれあいのあたたかさを肌で感じている子どもは、人間関係も良好で、まわりから好かれる人材になるでしょう。
そして2歳ごろからは、抱っこからコミュニケーション型のスキンシップに変えていきましょう。
肌と肌のふれあい(スキンシップ)をすると、脳の中でオキシトシンという物質が作られます。
オキシトシンには
◆親子の愛着を強くしたり
◆ストレスの反応を抑えたり
する大切な役割があり、また幸福感を感じることにも関わっています。
ほかにもオキシトシンは成長ホルモンやセロトニンを分泌させる作用もあります。
セロトニンとは安らぎや満足感を与える脳内物質で、「しあわせのホルモン」とも呼ばれています。
◆よろこびや快楽、不安や恐れなどを感じさせるはたらきの物質を適切にコントロールしたり
◆自律神経に作用して心と身体のバランスを上手にとる
はたらきをしてくれます。
このセロトニンの動きを活発にするのがオキシトシン。オキシトシンが出やすい状態を作っておくと、セロトニンが出やすい脳になり、ストレスに強くおだやかな性格になっていきます。
オキシトシンは、親密な人とのスキンシップをすれば大人でも分泌され、愛情が深まるんです。
触覚の研究では、肌と肌がふれあうスキンシップは脳に与える影響はとても大きいのですが、服の上からのスキンシップでも十分に効果があります。オキシトシンは触覚刺激によって自動的に分泌されるものではなく、そこから愛情を感じて幸福感が増すことで出てくるからです。
赤ちゃんを包み込むようにして、赤ちゃんの背骨が「C」の字になるように抱きます。
それが赤ちゃんにとって安心していられる姿勢です。
そうしないと赤ちゃんは抱っこ紐の後ろに寄りかかるようになって、しがみつく力や体幹の力がつかないのです。ある程度の年齢になったら「おんぶ」もオススメですね。
授乳の時の抱っこについてはこちら
CLICK▶︎赤ちゃんが飲みやすい&ママが腱鞘炎になりにくい抱き方
ここからは、山口創先生にbabycoママたちから寄せられた質問に具体的にお答えいただきましょう!
長年にわたって「身体感覚と心」の研究をしてきている先生だからこそのアドバイスです。
健康で元気な赤ちゃんでしたら、乳幼児期で抱っこをしないほうがいい状況はないと思っています。
泣いているときは、何か心地よくない感覚があるはずですから、それをなくして、安心させてあげる必要があります。
泣いているのに、安心できないでいると、
「ママは自分を愛してくれていない、大事に思っていない」
と赤ちゃんは感じてしまいます。
反対に、ご機嫌のいいときは、抱っこをしてママも笑顔を見せてあげてください。
ママのスマイルが赤ちゃんによろこびを感じさせ、笑顔=幸福と考える脳に育つことでしょう。
私の研究では、スキンシップが少ないと
■子どもの情緒が不安定になる
■将来攻撃的な性格になる
■自尊感情が低下して自信が持てなかったりする
といった悪影響があることがわかっています。
また、親のほうも子どもとのスキンシップが少ないと、
■子どもの感情に鈍感になる
■子どものサインがわかりにくくなる
■子どもへの愛情が減ってしまう
こともあるんですよ。
よくいただくご質問に、
というものがあります。
もちろん、乳児期までが大事な時期ですが、それ以降も大切です。
つまり、脳が発達している時期にたくさんふれあい、オキシトシンを分泌させやすい脳にしてあげることが重要だからです。
オキシトシン細胞が増えると、大人になってもオキシトシンの分泌が多い脳になり、その結果として大きくなってもストレスに強く、コミュニケーション能力が高い脳になることが期待できます。
スキンシップは抱っこだけではありません。
肌にタッチしたり、ベビーマッサージをしてあげるのも、抱っこと同じくらい効果があります。
私の研究では、「スキンシップをする側の人」にもオキシトシンが分泌されることがわかっています。
育児で疲れて、つい感情的になりそうなときは、赤ちゃんを抱っこしてそのあたたかさを感じてみてください。
オキシトシンが分泌しやすくなり、わが子を愛おしく思ったり、気持ちが落ち着いたりしてくるはずです。
そうなれば、子育てももっと楽しくなりますよね。
スキンシップは長くすればいいわけではありません。オキシトシンの分泌の仕方からみても、10分程度で十分に高まることがわかっています。ですから、短時間のスキンシップを何回も繰り返したほうがいいんです。
たとえば、1時間のうち10分程度でいいので「ちょい抱き」と、集中的にコミュニケーションをする、なんていうのもアリです!
残りの時間、赤ちゃんはママと少し離れて探索行動をしたり一人遊びさせておき、また1時間ほど経ったら「ちょい抱き」をする。
そうすれば、忙しいママもストレスをあまり感じずに、楽しく子どもとふれあいができるでしょう。
働くママは、時間を上手に使って、親子の濃厚なスキンシップを心がけてみてくださいね。
ママの抱っこばかりをお話していますが、パパの抱っこだって重要です。
私の研究では、
母親の抱っこは子どもの「情緒の安定」に役立ち、
父親の抱っこは「社会性を伸ばす」のに役立つことがわかっています。
海外でも、パパと遊びのなかで刺激的なスキンシップをするとオキシトシンがたくさん出るという研究結果もあります。
さらに、祖父母やご近所さんなどの抱っこもOK!
「世の中はあたたかくいいところなんだ」
「人とふれあうことは楽しいんだ」
と肌で感じるための大事な経験になります。
ぜひ、多くの人に抱っこしてもらいましょう。
親子のキズナは、抱っこだけに限りません。いつでもどこでもやさしくボディタッチするだけで、赤ちゃんは安心します。
水分をやさしく拭き取ったら、保湿のローションやクリームをのばしましょう。足も腕も、お腹も首も、全身を広くマッサージすると、オキシトシンの分泌もUPしそうです。
歌やリズムにあわせて、背中やお尻をトントントン。やさしくボディタッチすれば、赤ちゃんはこの上なくしあわせな気持ちになっていきますよ。
赤ちゃんにふれながらおむつ替えやお着替えをすると、赤ちゃんもスマイル♪
このとき、ママも笑顔を見せてあげてくださいね。
うつ伏せや、はいはいができるようになったら、パパのお腹の上でスキンシップ。少しゆれたりすると、赤ちゃんは声を出してよろこぶかも♡
お話を伺った先生:山口創先生
博士(人間科学)桜美林大学リベラルアーツ学群 教授
1967年生まれ。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は身体心理学、健康心理学。聖徳大学人文学部講師を経て、現在は桜美林大学教授。臨床発達心理士。子どもに触れることの影響やタッチングの質について研究している。
著書:『幸せになる脳はだっこで育つ』(廣済堂)『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書)『人は皮膚から癒やされる』(草思社)など多数。
フリーマガジン『babyco』の取材より